バイタルエリアが描く、ビジネスとスポーツの架け橋

「技術を越えるチームワークを、チームワークを支える“話せる”IT企業」を経営理念に掲げ、システム開発事業を行う株式会社バイタルエリア。
 

サッカー用語で「勝負する場所」を意味する「バイタルエリア」を社名に掲げ、サッカーをこよなく愛し、自身もシニアサッカーリーグでプレイに励んでいる代表取締役 上田健一。

 

 

上田社長が多くの学びを得たサッカーには、ビジネスとどのような共通項があるのか。日本サッカー名蹴会 会長 金田喜稔との対談が都内で行われ、経営とサッカーの共通項を探った

ー上田
金田さん、ご無沙汰しております。

 
 
ー金田
お久しぶりです。上田社長と以前、ハワイでサッカーをしたじゃない。
その時は「よく走る奴だなぁ」って関心していたんだけど、偉い社長さんでびっくりしたよ。
 
 
ー上田
別に偉くはないですよ(笑)


 
ー金田
昔、上田社長に僕が開催した「大人のサッカークリニック」に家族で参加してもらったことあるけど、奥さんのサッカーセンスも高かったよ。

ー上田
ありがとうございます。今も夫婦と子ども含めて家族全員でサッカーをやっています。

社会人サッカーをやっていると、周りが歳をとってきてどんどんメンバーが減ってくるんですよ。ですから、サッカー教室があると参加して、参加者と仲良くなってチームを作ってましたね。


ー金田
所属しているシニアのチームでも結果を残しているんだっけ?



ー上田
都大会で優勝経験があります。

ー金田
完全にシニアのアマチュアのチームなわけでしょ?それなりのレベルを常に維持してるのはすごいね。シニアの大会でも色々な繋がりができるだろうし、ゲームだけでなく終わってからの交流もあるし充実しているんじゃない?



ー上田
もちろん仕事のためにってことではないのですが、友達の友達は自然と皆繋がって行きますし、出会いもあり充実しています。ビジネスでコミュニケーションをするスポーツって基本はゴルフじゃないですか。長時間一緒にコースを回るし、何となく性格もわかるっていうのがあると思うんですけど、サッカーも同じだなと思います。プレイを見れば性格もわかりますし。


 
ー金田
確かに性格は出るね(笑)


 ー上田
私の先輩に「人生を全てサッカーに置き換えろ」って言う方がいらっしゃいまして、確かにそれって正しいなと思ったんです。仕事で苦しい時ってディフェンスじゃないですか。
どんなに苦しくても守らなきゃいけない時期もあるし、攻める時は一気に攻めつつもディフェンスのことを考えますし、自分がサッカーをやってきたからこそ深く理解できますね。


ー金田
それは面白いね。ちなみに、採用やチーム作りについて、ある程度技術や能力などがわかった人材を集めたチーム作りと、人材を育てることやっていくチーム作りとの2つがあると思んだけど、そこはどうなの?

 

技術を超えるチームワーク

ー上田
うちは基本「育てるチーム」ですね。そもそも中途の人も「IT業」を経験している人はほとんどいないですね。


ー金田
そうなんだ。それって技術系なのにできるの?


ー上田
できますよ!元々、青山でエステティシャンをやっていたり、サッカーの強豪校でコーチをやっていたり、経歴は様々です。


 

ー金田
それは凄いね。僕らもサッカー経験者の就職のサポートに力を入れていて、名蹴会では「セカンドチャレンジ」と言うんだけど、例えばサッカーをやって来た大学生が、3年生で就職活動をスタートさせて、競技生活としての4年目を棒に振ってしまうことが多くて、すごく勿体無いんだよね。できれば、自身がやってきたスポーツの経験を活かして4年目も充実して過ごして欲しいということで、そういう学生たちを優先的に企業に受け入れてもらえるように、名蹴会としてここ数年取り組んでいるんだけど、企業側にとってもそこまで頑張った人たちの良さを見て評価してくれたら、良い人材を確保できる良い機会だと思っているんだよね。

ー上田

弊社にも、サッカーU-17日本代表に選出された社員がいるんですけど、本来U-17の代表選手って日本に上位20人くらいしか居ない実力の人材な訳ですよ。確かに勉強やビジネスは現状経験が浅いのかもしれないですけど、そういう人材を、5年くらいかけて育てるほうがめちゃくちゃ良い人材になりますよ。絶対良いと思っているので、すでに実際にそういう人材を沢山採用しています。


ー金田
僕らが名蹴会で「セカンドチャレンジ」をやり始める前から、バイタルエリアさんは既にそういう取り組みをしていたんだね。



 
ー上田
そちらの方が効率が良いし、ある意味楽なんじゃないかと思っています。
ですから理念としては、学生時代にスポーツを全うしてきた選手たちがプロになることが叶わなかった時に、社会人としてこれからの長い人生を生きていくために、IT技術と言う部分を使って手に職をつけていきましょう。その代り、生涯スポーツ選手としてそのスポーツに取り組んで、お世話になったスポーツに恩返ししましょう。というものですね。

ー金田
素晴らしい理念だね。

ー上田
IT業界はチームスポーツのように皆で色んなシステムを作るし、一人ではできない業界です。反面、技術革新も激しいんですけど、一流のアスリート達は練習すれば結果が出ることを学んでいます。ここがわかっているかが本当に大事ですからね。こういったことって、結局は「人間力」だと思うんですけど、根本的には「スポーツを頑張ってきた人って、人間力が高いよね」ということに通じると思うんですよ。ちなみに、弊社の新入社員は、全員一人暮らしをすることになっています。もちろん家賃補助は出しますが、初任給とは別に1万円をあげて、そのお金で親にプレゼントを買ってきなさいと言っています。そして、新入社員の親には必ず会うようにしています。稀になんですが、自分の子どもがサッカーやスポーツでそこそこの結果を残して活躍していると、子どもより親のほうが「うちの子はプロになる」と熱が入っていて、プロになることが叶わなかった時に、本人よりも親が諦めきれないことが多々あるんですよ。


ー金田
それが今時の親なのかね。でも、そう言う選手達は自分からバイタルエリアさんに入社志望したの?


 

スポーツで培った人間力を発揮

ー上田
そうですね。就職する時期って普通は春なんですけど、そういう時期に就活する人材は採用しないんです。インカレなどに最後まで挑戦して「プロになって一発当ててやるぜ」っていうような人材が欲しいので。

ー金田
でも確かに、サッカーには、フィールドにそれぞれのポジションの選手が居て、ベンチの控え選手、ピッチの外にも栄養管理、ドクターも含めて様々な役割があるけど、それぞれの各分野でのスペシャリストを養成していけばチームが出来上がるっていう考え方で会社も大きくしていって社会に貢献したいっていくのは本当に素晴らしい考え方だよね。


 
ー上田
感覚としては弊社は「サッカー部」ですね。社員研修をしたりしますけど、テーマが「ドーハの悲劇」だったりします。

ー金田
それはめちゃくちゃ面白そうだね(笑)

ー上田

サッカー関係者にはウケると思います。例えばドーハの悲劇の最後の場面でこうすればよかったみたいな部分はいくつかあると思うんですけど、「日本サッカーが初めてワールドカップに出場できると沸いた時で、誰もがワールドカップに行きたかったから、ついもう一点取りに行ってしまったんだよね、でもこれって経験しないとわからないよね」ということを議論します。

ー金田
答えの出し方は難しいとは思うけど、日本サッカーの歴史の中で、「ドーハの悲劇」というのがプロ化以降の大きな起点になっているから、そこを多角的に議論ができる社員研修だったらめちゃくちゃ興味深いね。それは上田社長が自分で講師をするの?

ー上田
もちろんです。それが仕事なので。(笑)


実際の研修では、サッカー以外にも様々なスポーツを通じてビジネスの考え方を教えて行くんですが、例えばイチローがWBCで決勝打を決めた場面の後に、国内のTVなどで色々なコメントが生まれます。でも、そのコメントをする人たちって別に野球に詳しくない方のコメントも多いじゃないですか。つまり、仕事の評価や自分の価値というのは「他人」がするんだよってことが言えるんです。あとは、「経験の大切さ」ですね。子育てをして初めて両親のありがたみを真に実感するように、仕事においてもとにかく自分やってみろ、経験してみろ、という場面もあります。それと、ビジネスにおいては、皆「結果しか見ていない」ということも教えます。友人がラーメン屋をやっていたとして、いざ食べに行って不味かったらもう行かない。結果がいかに大事かということです。日本のサッカー界で良いところが、サッカー選手になることが全てじゃないよ、ということをしっかり教えている場面を多く見かけます。それ以外の人生も必ずあるから、いつでもしっかり前を向こうっていうのは常に言っています。

ー金田
スポーツを通じて共通理解できるところなんだね。


 

ー上田
共通理解は山のようにあります。ビジネスにおいて、社長や上司が「こういう方針で行きます」という場面があるように、サッカーも一緒で、監督がチームの方向性を指示しますよね。
その方向性を指示された後、営業に出かけるとして、そこに自分の上司はいません。サッカーもいざプレイする時、ボールを持った時に監督は隣に居ないですよね。子どもの時からパス、トラップ、ドリブル、シュート、どうするか全て自分で判断しますよね。ビジネスも同じで、上司がどうとかは関係なくて、全て自分の判断なんです。

 
また、試合が終わった後に、相手選手に対してリスペクトあるのと「嫌いだぜ」と卑屈になるのどちらが良いか。時が経って、相手選手がチームメイトになるかもしれないじゃ無いですか。試合中はエキサイトしてて良いんですけど、終わったら関係ないよね。君一人の力でここにいるわけじゃなくて、もう少し周りの人に感謝しないとって事もよく教えています。そういったことも全て、サッカーから学んでいます。
さらに僕らの仕事って「世の中にないサービスを作りましょう」というようなクリエイティブなことではなく、お客様の「こういうことがやりたい」というご要望があって、それに対してその実現のために頑張るだけなんですよ。ある種、言われたことやっているだけなんです。これもサッカーの練習と同じです。ただ、お客様のご要望に対して「10」求められたら「10」やるのは当たり前なので、「12」で返し続ければ凄い評価にはなるよね、ということも意識して取り組んでいます。

ー金田
サッカーからの学びって凄いね。今後のビジョンはどういう風に考えているの?

ー上田
僕は基本、IT事業にこだわってはいなくて、もしうちの社員が「コンビニやりたい」と言ったら全然良いと思いますし、しっかりと人並みに稼ぎながらやりたいことをやれているかが大事だと思います。
生活のための手段として仕事があると、生活や家族、旅行に行きたいなどやりたいこのモチベーションなどの方が全然大事で、そのためにはお金が必要だから仕事をするんですよと、そしてその仕事はお金貰っているからプロであれっていう考え方です。
例えば、家族が倒れた時に仕事を選ぶとはならないですよね。ただ、そのためにお金はある程度必要になるので人並みには稼ぎましょうね、かつ会社なんていつ潰れるかわからないのだからちゃんと自分の力で稼げるようにしましょう。女性であれば妊娠だったりパートナーが転勤だったりした時に、いちいちゼロからやり直したらキリがないので、しっかりと手に職をつけていこうという発想ですね。
プロである以上はしっかりやる、そのために技術は必要だと思いますし、たくさん学ぶ必要はあります。稼ぐことを一番にと思っているなら、うちの会社じゃない方がいいと思います。
僕としては、「自分の会社の社員を大事にする」ことを大切にしています。昔の日本が、ご近所付き合いをしっかりしていて互いに協力していたように。子育ても親だけではなく、地域の皆で協力できるのが良いですよね。
そのためには当然お互いのことを知っていないといけないと思うんですけど、僕の考え方としては「皆を小学生に戻そう」なんですよ。
小学生の時って友達の親も知っていて、自分の親も友達に知ってもらっているじゃないですか。それが中学、高校、大学、社会人になっていくと、どんどんわからなくなりますよね。だから小学生時代の付き合い方に戻って、皆がそれぞれの親を知っている状態にしたいです。実際に、私含め社員同士の親を知っているというようにはしています。


 

ー金田
どこかでこの経済システム自体の舵を切る必要があると言うか、昔の日本にあった「皆で助け合って生きていける社会」がそう言うことだよね。
今はそれと真逆に、グローバリズムの襲来の中でそういったものが壊されていて、何でも手段を選ばずに金儲けに走って行く時代が平成と共に30年続いてきて、その中で日本全体のサラリーマンの年収が150~200万ほど減ってきていると。だけど、何十億も稼いでる成功者と呼ばれる人も出てきている事自体は、本当の意味での1億総中流社会が悪かったのかと言うと全然良かったわけで、僕なんかは、日産自動車のサラリーマン時代に、そっちが入り口で育っているからね。
でも、途中から全ての企業が外へ外へとなる中で、壊され変化してきたのが今の日本だと思います。それは経済だけではなく地域の文化もだよね。だからこそ、どこかで舵を切る必要があって、今回のコロナウィルスは逆にナショナリズムを見つめ直すきっかけにはなるのかと思うよね。


 
ー上田
それはありますね。僕は基本的にどこの国で何してても良いのかなと思っていて、サッカーではJリーグを目指すのでも良いし、地域に根付いてやるのでも良いんですよね。マンチェスターユナイテッドの元監督のファーガソンは大学で教授やっているくらいですし、サッカーをきちんとビジネスに活かせたら良いなと思います。サッカーやスポーツだと小さい頃から世界や外を見るので人種差別なども含めて色々な価値観が芽生えるんですよね。

ー金田
高校野球もJリーグも、高校生時代からエリートが集まって、さらに大学でも凌ぎを削って、結局は上位1~2%しかプロになれないとなって、残りの98%はスポーツから離れてしまうみたいなことになってしまう。ここに対して日本全体でスポーツというものをもう少し認知してもらうための努力を、僕らがしていかないとダメだなと思っています。「プロになれなかったらスポーツは終わり」というような仕組みを変えていかないといけない。

ー上田
それは本当にその通りですね。

ー金田
仕事は誰でもするものであって、プロにならなかった残りの98%の人たちが、仕事しながら何らかの形でスポーツに関われる環境を作っていく必要があるよね。上田社長の話を聞いてて感心したのが「スポーツに対して何が貢献できるか」を社員全体に発信しているところ。
名蹴会でも、子どもやシニアのサッカー環境をもっと充実させるために、様々な企業の力をあおぎながら進めて行きたいと思っているので、また良い機会があれば是非バイタルエリアさんと今後共お付き合いしていければと思います。本日はありがとうございました。


ー上田
ありがとうございました!


 
Dialogue MC:Yoshifumi Asano(ALL MOVIE JAPAN Inc.)
photograph & text by SATO Shogo
(本対談は、2020年3月に実施いたしました。)

PROFILE

株式会社バイタルエリア 
代表取締役 / 上田 健一

 
1973年東京都・東村山市生まれ。野球少年だったが、あるきっかけで「キャプテン翼」と出会い、サッカーに明け暮れる青春時代を過ごした。まだ、ITという言葉もポピュラーではない時代に、先輩の紹介で右も左も分からないIT業界に入り、プログラムやソフトウェア開発の基礎を学ぶ。数々の大手案件を担当していく中で、IT業界でのやり甲斐や魅力を感じ、2010年株式会社バイタルエリアを設立。


LINK >> https://www.vital-area.com/index.html