特別対談
物流とサッカーの新時代における"挑戦"
金田喜稔 × 瀬戸口敦



EC市場やウーバーイーツを代表するフードデリバリーの拡充により、”ラストワンマイル”と呼ばれる自宅までのデリバリーサービスが一般化する現代。北商物流株式会社の代表取締役であり、一般社団法人軽貨物ロジスティック協会の副理事長も務める瀬戸口 敦氏は、軽貨物業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立し、業界の持続的な発展を目指すために数々の挑戦に取り組んでいる。2023年2月、北区の北商物流にて日本サッカー名蹴会の会長である金田喜稔氏との対談が実現した。

 

金田 ホームページを拝見しましたら、名蹴会の発足とちょうど同じ頃に北商物流さんをご創業されたのですね。

瀬戸口  ちょうど東日本大震災の後に創業したのですが、当時、震災の影響で物流業界は仕事がなくて半年くらいは大変でした。今年で12期目を迎えますが、創業当時よりラストワンマイルの市場も大きくなり、ここ数年は特に仕事が非常に増えました。


金田 コロナ禍ではいかがでしたか?
 

瀬戸口 もともと365日動いている仕事ではありますが、コロナの時は本当に1日も休めないくらいの物量でした。宅配業はいわゆる"エッセンシャルワーカー"という扱いだったので、業績は上がりましたが、あの時期は今振り返ると異常な程忙しかったです。

金田 なかなか外出ができず、店舗が閉まっていることもありましたね。ドライバーさんには頭が下がる思いでした。
 

瀬戸口 弊社のドライバーは業務委託契約で、もともと人の出入りが激しい業界です。当時は、飲食店がお店を営業できなかったこともあり、飲食業界の方からの求人が殺到しました。今はだいぶ落ち着いてきたので、徐々にドライバーから飲食業界に戻る方も多いです。そうやってさまざまな事情で辞めてしまうドライバーもいますが、働いていただくドライバーの労働環境の改善は弊社が精一杯取り組んでいることでもあります。

金田 その動機ですが、瀬戸口さんもドライバーをされていたんですか?

 

瀬戸口 私はもともと”日通のペリカン便”のドライバーをしていました。私がドライバーをしている時は、今ほどEC市場も盛んではありませんでしたが、「にいにいにいよん」と呼ばれる「22~24時便」という深夜便がありました。その時代にドライバーを経験しているので、労働時間が長いのは当たり前と思っていた部分もあるのですが、現代は物流業界もめざましく進化をしていますので、今の時代に合った労働環境や待遇の改善、福利厚生を充実させる取り組みをしています。

金田 今でこそ当たり前になっている「置き配」や「宅配ボックス」も当時はなくて、スマホで受け取り先を変更することも手軽にできなかった時代ですよね。当時の「22〜24時便」は、受け取る側からしたら便利だったのでしょうがドライバーさんにとっては大変ですよね。業界の慣習も変化しているのですね。
 

瀬戸口 個人情報の取り扱い意識も、私がドライバーをしていた頃よりも厳しくなったと思います。プライバシーマークは本来取得しなくても事業は行えるのですが、メーカー様側からも安心して直接取引が実現出来る様に取得しました。当社は、企業との専属契約が圧倒的に多く、メーカー様との直接お取引が営業方針ですので、会社として多くの資格や許認可を取得し、体制を強化しております。
また、この業界では仕事を横流しするだけで中間マージンを搾取する“水屋“と呼ばれる中間業者が入る多重構造が問題視されています。発注元の孫請の曾孫(ひまご)という風に中間業者が入って、最後は玄孫(やしゃご)くらいのドライバーが、元の受注額の半額くらいで仕事をすることになってしまいます。この他にもミズヤが介在するリスクとして、発注元のクライアントの業績が良くても“水屋“が資金ショートするとお金の流れがピタッと止まってしまうというリスクも孕んでいます。弊社は“水屋“が介在しない、メーカーとの直接取引を基本としていますので、その分稼げるドライバーも多いです。
 

金田 宅配サービスが社会的インフラとしてますます普及し、今後も成長が見込まれる中、瀬戸口さんは北商物流や軽貨物ロジスティクス協会の立場として、業界の課題解決に取り組んでいるのですね。
 

瀬戸口 はい、私たちは個人事業主であるドライバーさんを尊重する姿勢が重要だと考えています。運転を伴う仕事ですので、長くても1日12時間以内の労働時間や週に1回の休日取得を推奨しています。会社が長時間労働を強制すると使用者責任が生じてしまいますし、逆に縛り込もうとすると下請法違反になってしまいます。私たちはドライバーさんを独立したパートナーとして位置づけており、福利厚生や労働環境の整備に注力しています。特に、宅配は主に公道での仕事になるので、交通事故を極限まで抑えるような社内研修制度を用意しています。応用行動分析学を専門にした大学教授を招いて、ドライバー個々に合わせたマネジメントを行い、軽貨物に特化した仕事のクオリティを高めようという取り組みです。弊社の研修にはクライアントの方からも参加希望があり、好評を得ています。独立したプロであるドライバーと弊社との関係は、サッカー選手とクラブとの関係に通じるものがありますね。

金田 
確かにクラブが選手のトレーニングやパフォーマンスアップをフォローする関係に似ているかもしれませんね。24時間のうち食事や休息の時間もある意味トレーニングに含まれると考えれば、クラブはその選手の24時間の使い方を尊重せざるを得ないですね。ドライバーさんが走っている公道には審判も居ないから、相手同士の判断違いがあれば事故に繋がる可能性があります。何が起きても分からない公道での仕事はリスクを避けられないけど、だからこそ交通事故の予防にコストをかけていくことは企業姿勢としても大切なことだと思います。
 

瀬戸口 サッカー選手も同じかもしれませんが、ドライバーはそれぞれ強い個性を持っています。私の理念は、弊社のドライバーに対してお節介くらいにフォローすることです。ドライバーは小さな悩みや相談があればいつでも私に電話してくれますし、私も誠心誠意応えています。なぜなら、日頃一緒に働いているドライバーに対してそれができなかったら、お客様にもできないと考えているからです。"練習でできないことは、試合でもできない" というのと同じですね。お客様の自宅の玄関からリビングに上がるようなお仕事は毎回がアウェイゲームの気分ですし、宅配業はきついことも多いのですが、「仕事は楽しくやる」ということを大切にしています。大きな荷物のお届けで、エレベーターがない団地の階段を使って上げる時、「お金を貰って筋トレが出来る」と前向きに考えて、プロテインを飲みながら仕事していたこともありますよ。
 

金田 わしも日常の階段の上り下りは足腰を鍛えると思ってやっているので、その気持ちがよくわかりますよ。ネガティブな気持ちじゃ成果って出ないからね。会社の雰囲気は決算書に載らないからこそ非常に大切な事だと思う。北商物流さんは、名蹴会以外にもスペリオ城北のスポンサードもされていますよね。

瀬戸口 スペリオ城北は、東京都北区・板橋区・豊島区・荒川区・足立区をホームタウンとしたチームなのですが、赤羽の方と会話をすると「Jリーグのチームは知らないけど、スペリオ城北は知っている」という方も多くて、地域にとても根付いてるチームだと思います。今、東京都2部リーグなのですが、赤羽を歩くとスペリオ城北のフラッグが街頭にたくさん掲出されています。S級コーチライセンスを取得している吉見章さんを監督に招いて、チームも盛り上がっています。
 

金田 赤羽は、わしが現役の頃、毎週のように赤羽駅で降りて国立西が丘競技場(現在の味の素フィールド西が丘)まで歩いて通っていたから、よく覚えています。昔から活気のある街だという印象があるね。懐かしいよ。

瀬戸口
 北区東十条の成立学園高校も大津祐樹選手を輩出していますし、赤羽の飲食店にも色々なアスリートのサインが飾ってあるのをよく見かけます。赤羽は“せんべろの街”としても有名ですが、西ヶ丘にはトレセンも有りますし、実はスポーツが盛んな街ですね。
 

金田 この間のFIFA W杯カタール大会では、日本が強豪国のドイツとスペインにも歴史的勝利をした一方で、高齢化社会の影響もあってシニアの競技人口が増加傾向にあり、日本サッカー界も新時代を迎えていると思うんですよ。シニアが活き活きとサッカーを楽しむ姿は、地域の子どもや地域のスポーツ環境に好循環が生まれると信じています。瀬戸口社長がおっしゃった通り、北区はサッカーの基盤がある土地だから北区のシニアを対象としたサッカークリニックも今後やっていきたいね。

瀬戸口 大好きな北区で仕事をして、地域に貢献できる企業を目指していますので実現できたら嬉しいです。今後も、自分と相手以外の第三者に喜んでもらえる”三方良し”な取り組みをして、軽貨物業界のさらなる発展に挑戦していきたいです。FIFA W杯カタール大会の日本戦を観て素直に感動しましたし、今後の日本サッカー界の発展にも期待しています。
 
Interviewed by Sunao HARA

Photographs & Text by Shogo SATO



PROFILE

北商物流株式会社
代表取締役
瀬戸口 敦 Atsushi SETOGUCHI


【本社】〒115-0052東京都北区赤羽北2-29-12リバービューハイツ赤羽北1階
【関西営業所物流センター】〒578-0984大阪府東大阪市菱江2-16-12

設立 平成23年6月

事業内容
ネットスーパー、企業専属便、ルート配送、個人配達、家電配送・取り付け設置・リサイクル家電回収、家電配送作業全般、3PL事業
 
 



LINK


北商物流株式会社 https://hokushow.com

一般社団法人 軽貨物ロジスティクス協会 https://k-logistics.jp