日本のスポーツ・文化活動と健康寿命

 1964年に創業し” 健康を通して人類の幸福を実現する”という企業理念の基、人々の健康づくりをサポートするための体験型ショールーム”ハクジュプラザ”を全国に約500店舗展開する株式会社白寿生科学研究所。
 同社の主力製品であるヘルストロンは、家庭用の医療機器という世界に当時なかったカテゴリーを創出した。主力商品であるヘルストロンに加え、健康食品、クラシック音楽専門ホール”Hakuju Hall”の運営や介護事業など、時代のニーズにあわせて進化し続けている同社の代表取締役社長 原浩之氏。
 渋谷区富ヶ谷の白寿本社ビルで、日本サッカー名蹴会の会長を務め、2021年9月より初代JFAシニアアンバサダーを務める金田喜稔との対談が行われた。自身の”健康”について誰もが再考する機会を与えられたこの時代。二人の胸中と未来への展望は?



 
金田 原社長、本日はよろしくお願いいたします。初めてお邪魔させて頂いたのですが、こちらの立派な本社ビルには、音楽ホールも併設されていらっしゃるんですね。
 

 創業地である板橋区役所前にあった本社を、2002年に渋谷区富ヶ谷へ移転しました。移転後、クラシック専門ホール”Hakuju Hall”が完成し、柿落としが2003年10月でした。医療機器企業は文京区の湯島や本郷がメッカなのですが、都心部で色々と土地を物色しまして、実家もあり土地勘のある渋谷に移転を決めました。
 
 

金田 クラシック専門ホールを造られたのは、原社長が音楽をやってらっしゃったからなのですか?

原 私は小学校でラグビー、中学で野球をやっていまして、高校大学でオーケストラのバイオリンを弾いていました。弊社の主力商品でもある”ヘルストロン”を発明した祖父が提唱した「ゆとりある精神、バランスのとれた食事、適度な運動」というセルフヘルプの思想を基に、「ゆとりある精神」を本社ビルから発信していこうというのがホールのコンセプトになっています。約250年も前から現代に至るまで愛され続けているモーツァルトやバッハのクラシック音楽は、時代や国境を超えて人々に受け入れられ続けています。よく巷にある”総合文化会館”のようなものを建設する案もあったのですが、音響の良さに特化したクラシック専門ホールに思い切り舵を切った方が、全国にたくさんあるホールの中でも埋もれず勝負できるのではと思い、建設に踏み切りました。コロナ前にはなりますが、年間200公演程が開催されるホールにまで育ちました。


金田 ホールのコンセプトと企業理念の一貫性が素晴らしいですね。僕も「休養・栄養・トレーニング」というトライアングルを常に意識して現役時代を過ごしていたので、御社の企業理念は非常に共感ができます。白寿さんの「健康を通して人類の幸福を実現する」という企業理念を、クラシック音楽とHakuju Hallというフィルターを通して発信されているのは非常に興味深いですね。


 
原 Hakuju Hallを建設するにあたっては、竹中工務店の音響デザイナー日高孝之さんとの出会いもありまして、その方と一緒に”理想の音”を求めて3泊5日の弾丸でヨーロッパに赴きホール巡りをしました。オーストリア・ウィーンの楽友協会ホールのBrahms Saal(ブラームス・ザール)には2回連続で行き、内装や音響で目指すものを共に確認してきました。例えばHakuju Hallの全ての床材は、日本では見た目の清潔感が優先されるので使用されないことが多い”サクラ材”を用いています。柔らかく床は痛みやすいですが、ウーファーのような働きをし、力強い低音を鳴らすのに役立ちます。その他にも現地で参考とした数々の音響機能を建築に取り入れており、Hakuju Hallのインテリアは全て音響的機能を持っています。その音響デザイナーさんのおかげもあって、当初の予想を凌駕するほどの音響を手にすることができました。また、座席は世界初でもあるリクライニングシートを導入しまして、くつろぎながら演奏を楽しんで頂くことができます。


金田 ホール建設の経緯には、社長の凄まじいエネルギーや音楽愛があったのですね。
 
 
原 振り返れば当時はまだ30代で、所謂”若造の浅知恵”でしたが、今では多くの方々がホールに足を運んで頂くようになりました。クラシック音楽というと、ハイソなイメージを持たれたり、どうしても敷居が高いとお感じになられる方も少なくないと思います。多くの方に気軽にコンサートを楽しんでいただけるように、コンサートの開催時間をお仕事の後でも間に合う時間の19時30分から20時30分の1時間と短めに設定したりと、クラシック音楽をより多くの方に知ってもらい、楽しんでもらいたいと思って様々な工夫をしています。

  金田 まさにクラシック音楽の普及という観点をお持ちだと思うのですが、我々名蹴会としても、2010年の発足から一人でも多くの方にサッカーを好きになってもらいたいと普及活動を継続しています。最近では、高校や大学までサッカーをやっていたけど、仕事や家庭の事情で一時的にサッカーから離れたミドル・シニア年代の大人たちに向けたサッカークリニックを全国で開催しています。日常的に行う適度な運動は免疫力も高まりますし、サッカーを通じて心も身体も健康になって欲しいという思いでやっているのですが、大人たちがピッチに集まることで、職場や家庭とは別のコミュニティが生まれています。そこが地域の出会いの場にもなっていて、参加者の大人たちも非常に楽しそうに参加してくれています。


 Hakuju Hallで開催されるコンサートは、私が人選をするのですが、まだ世に埋もれている天才的な若い演奏家がたくさん居ます。しかし、なかなか音楽だけでは生計を立てることが難しい現状もあり、そんな若き才能たちを応援していただけるようなパトロンを結びつける出会いの場としての在り方も模索しています。少しでも才能が報われて欲しいという思いなのですが、Hakuju Hallが未知の音楽鑑賞体験や人との出会いを創出するコミュニティーとしても発展して欲しいと思っています。

 

 

 

 

金田 ヨーロッパや南米のサッカー大国でも、サッカー場がコミュニティーとして地域の発展に深く関わっています。音楽やスポーツのコミュニティーを通じて、一人でも多くの人が、健康や精神的豊さについての意識を醸成してもらえたら、より良い社会の形成に役立つと思いますね。また、サッカーに限らずですが、スポーツで上を目指す場合、体力的にも精神的にも相当自分を追い込まなければなりません。従って、トレーニングを継続し、トレーニングの効果を最大限に発揮するためには「栄養と休養」というのが、トレーニングと同等に非常に大切な要素として扱われるのですが、白寿さんが取り組んでいらっしゃる健康事業について教えて頂けますか。


原 今、所謂”健康器具のメーカー”から、”総合健康発信機能を持った企業”に生まれ変わろうとしているのですが、ヘルストロンという電気治療機器の売上と健康食品の売上が約半々です。ヘルストロンをご体験頂けるハクジュプラザという店舗を、日本全国に約500店舗展開しております。
 
 
金田 僕は広島県の出身なのですが、ハクジュプラザは広島県にも多くご出店されているようですね。


 金田さんは、広島のどちらのご出身ですか?

 
金田 安芸郡府中町(あきぐんふちゅうちょう)というところです。
 
 
原 府中町ですか?実は2021年の10月にハクジュプラザをオープンするんですよ。


金田 え、本当に!?(笑)


原 はい。別に金田さんの出身地を下調べしていたわけでもなかったのですが、偶然ですね(笑)

 
金田 僕は府中町のPR大使もやっているのですが、それは非常に嬉しいですね。2020年に府中町に「揚倉山健康運動公園上段多目的広場」という立派な人工芝のグラウンドが完成して、まだそこに立ち寄れていないのですが、府中町のハクジュプラザさんにも是非立ち寄ってみたいですね。


 それは嬉しいです!是非一度お立ち寄りください。ハクジュプラザは、職場と家庭に次ぐ、地域の”サードプレイス”としての役割を担っていまして、ハクジュプラザに行けば友達ができたり、健康の知識が身についたり、ご高齢の方や独り身の方にとっても心が落ち着くようなコミュニティーを目指しています。ヘルストロンをご購入されていない方にも気軽に足を運んで頂いておりまして、お一人様20分までですが、ヘルストロンを毎日無料でご体験頂くこともできます。毎日のように通って頂く方もたくさんいらっしゃいまして、健康についての関心が少しでも生まれる場所になったら嬉しいと思っています。他の健康機具の会社では、執拗な売り込みをして”買わせる”ような営業をする会社もあるそうですが、ハクジュプラザはそういった接客はありませんのでご安心して足を運んで頂ければと思っています。


金田 先ほどのHakuju Hallもそうですが、人々が集まるコミュニティーを全国に作られている訳ですね。これからの時代は特に、それぞれが健康に対してより意識を高めてもらいたいですね。


原 健康は”あって当たり前”のもので、健康について考えるようになるのは”失ってから”という人がほとんどです。なんとか健康を失う前に、ご自身の健康について考える機会や場の創出をしたいという思いがあります。スタッフの商品知識はもちろん、健康についての知識を高める教育を全力で行なっていまして、お客様にありがとうと言って頂けるのがスタッフのやりがいにも繋がりますし、地道ではありますが、ハクジュプラザがある地域の健康寿命延伸に寄与したいと思っています。
また、ハクジュプラザではアスリートの採用も積極的に行っておりまして、元プロ野球選手が店長を務めるお店もあります。厳しいスポーツの世界で努力した実績や怪我などで挫折を経験し乗り越えた精神性、チームの勝利の為に献身的に行動することができるという面でも弊社の企業理念には最適な人材です。まだメジャーではないセパタクロー、アルティメット、ラクロスなどの競技の現役選手が就労している店舗もあるのですが、アスリートが発する健康についての言葉は説得力もありますし、店舗でお客様との接点を持つことでお客様がその競技のことを知るきっかけにもなっています。その選手が試合に出場するときはお客様が応援に駆けつけて頂くこともあり、スポーツと健康が有機的に結びついている事例を目にすると非常に嬉しいです。


 

金田 名蹴会の活動のヒントにもなるお話しで非常に勉強になりますね。そういった地道なことの積み重ねが地域の健康寿命に必ず良い影響を及ぼすと思いますし、都心はもちろんですが、僕の出身の広島のような全国の地方都市でもそういったサイクルがもっと生まれていって欲しいですね。


 弊社では、何チームかJリーグのスポンサーもさせて頂いてるのですが、試合前にスタジアムで運動をして、その後試合を観戦しようというイベントを数年前に実施しました。祖父母がお孫さんを連れて参加して頂き、ご高齢の方が子どもの頃に戻ったように楽しんで参加される姿が印象的でした。スタジアムに足を運ぶのが初めての方も多く、非日常的なスタジアムという空間で身体を動かし、Jリーグの試合を観戦する。まさに「知らないことを知る」という喜びにつながったのではと思います。

 
 金田 Jリーグの応援もして頂きありがとうございます。そういった企業とクラブが連携した活動が積み重なって普及というのは広がりを持つと思います。健康意識の啓蒙啓発とJリーグ並びにサッカーの普及が両立した素晴らしい取り組みですね。


原 以前、広島カープの試合のワンデースポンサーをやったこともあるのですが、球場に来場した何万人もの観客の熱気が物凄く、行列して開場を待つ真っ赤な服を着たファンの方々の中には、カープのレジェンド「衣笠祥雄」さんのユニフォームを着ている方もいらっしゃいました。地方都市におけるスポーツの存在感というものを肌身で感じ、圧倒されたことがあります。



金田 まさに地元愛ですよね。サッカー大国と呼ばれている国の名門クラブも地域で愛されていますし、地域住民からしたら最早生活の一部といった感じです。日本にはお祭りという文化がありますが、サッカー大国の街は、愛する地元クラブの応援をし、勝敗に一喜一憂してそれについて語り合う。毎週のようにお祭りがあるような感じです。日本もサッカー大国として成長するためには、地域住民とサッカーがもっと深く結びついて、サッカーが日常化していかなければいけないと思っています。僕は「やる・見る・語る」の3つを揃えて普及していくことに意義があると思い、活動しているところです。

 

原 私が見てきた海外の国でもキリスト教圏というのは土日が休みなのでサッカーをしたりクラシックを鑑賞したりする余暇やコミュニティーが生まれやすく、人々が参画しやすいので習慣化されやすいという宗教的環境も起因していると思うのですが、日本でもスポーツや文化活動を中心としたコミュニティーがもっと発展して習慣化して欲しいですし、弊社がそれの一助にもなれたら嬉しいと思っています。
 

金田 今回JCカップにご協賛頂いた「カルロン」もそうですが、大人の生活習慣は子どもが真似しますので、是非親御さんにも習慣化して頂きたいですね。大人が日常的にスポーツや音楽を嗜む習慣や健康に向ける意識というのは必ず子どもにも影響していきますので、大人の方々には是非実践し継続していって欲しいですね。僕の時代でカルシウムを摂るといったら「牛乳飲んで煮干し食べなさい」の一辺倒だったので、カルロンのような水溶性のカルシウム飲料というのがもっと普及していくと、国民の健康意識や健康レベルというものが上がっていくのではないかと思いますね。
 
原 筋肉をつけるのにプロテインを飲む習慣というのは浸透してきていますが、骨を成長させるためにカルシウムを摂取するという意識や習慣を、子どもたちにもっと浸透させたいと、弊社でも力を入れているところです。自治体が民間企業の力も借りて健康寿命の延伸について働きかけをする事例も増えていますので、弊社としてもこれまでの実績を活かしてさらに国民の健康寿命の延伸に貢献していきたいと思っています。また、健康だけに限らず「知らないことを知る」という楽しさも是非多くの皆様にも知っていただけたら幸いです。


金田 コロナの有無に拘らず、筋肉量の多い下半身のトレーニングをして、視覚や認知的にも色々な刺激を与えてあげて、自身の免疫力を上げるに越したことはないと思います。ミドル・シニア層の大人たちは、部活でサッカーを経験して以来、サッカークリニックに参加したことがない方がほとんどなのですが、僕が行うメニューを経験すると、まさに「知らないことを知る」という経験になります。一時期ステイホームが叫ばれましたけど感染対策をとった上で、屋外でたくさん体を動かして自身の健康につなげていって欲しいですね。


原 金田さんがハクジュプラザの店長になったら、すぐトップセールスになりますね。(笑)ここ数年、過度なステイホームによって生じる健康リスクが社会問題になっていまして、日光に当たらないからビタミンDが生成されない、人との会話が減って認知機能が低下する、ストレスでNK細胞が低下する、運動不足で筋肉量が低下する。家にずっと居て良いことは無いんですよ。高齢者と同居する40代や50代の方も、高齢者の感染に恐れて安易に「外出するな」と指示を出してしまい、結果高齢者の健康寿命に影響してしまうのです。全国のハクジュプラザを通じてそういった高齢者の皆さんの声が私のところにも届いており憂慮しています。


金田 僕も、コロナ禍をきっかけに外出が減って運動不足になったことで、積極的に運動をしないといけないという意識が高まった大人が増えたように感じています。コロナ禍が、これまでの生活習慣を見直し、健康に対して目を向ける好機になった方も多いのではないでしょうか。先日、「初代JFAシニアサッカーアンバサダー」に就任したのですが、高校や大学の部活でサッカーを引退するのではなく、大人になってもサッカーを辞めない環境整備、サッカーのプレイを日常化する活動を進めていきたいと思っています。


 私の周りでもサーフィンをしたり、フットサルをしたり、日常に何かしらスポーツを取り入れている友人も多いのですが、大人になっても仕事以外で夢中になれることがあるのはとても良いことだと思いますね。弊社は今後、ハクジュプラザを1,000店舗に広げ、「ハクジュプラザに行けば願いが叶う」といったような、健康に関するあらゆるニーズに対応できる総合デイサービスのような場にしていきたいと思っています。通常お店を出店する場合、地域のマーケティング調査をして店舗をオープンするケースが多いと思うのですが、弊社はスタッフの住んでいる地域から逆算して出店計画を進めることも多いです。そういった発想が時には奇異に映る場合もあり、「株式公開なんて夢のまた夢ですよ」と言われることもありますが、そんな「採用した人から出店計画を立てる企業」が一つくらいあっても良いんじゃないかと思っています。人の役に立つこと、ありがとうと言われるのってシンプルに嬉しいじゃないですか。
 
 
金田 是非広島も含めて全国を盛り上げてください。僕も何かお役に立てたら嬉しいです。生活習慣が悪いと健康寿命ではなく、ただ単に寿命だけが伸びてしまいます。老後、家族や周囲に負担をかけない生き方は国民誰もが求めることですからね。
 
 
原 まだまだ話し足りないですが、体脂肪だけではなく体水分率や基礎代謝量という数値も測ると面白いんです。まだまだ私も知らないことが多いので、これからも色々なことを学んで、健康寿命延伸についての啓蒙啓発に取り組んでいきたいですね。   



 

PROFILE

株式会社白寿生科学研究所
代表取締役社長 原浩之 Hiroyuki HARA
 
 
1971年東京生まれ。1994年慶應義塾大学卒業。銀行員などを経て1998年白寿生科学研究所入社、2000年取締役、2003年営業本部長、2020年代表取締役社長に就任。都内・富ヶ谷にある同社本社敷地内の音楽ホールHakuju Hallの支配人も務める。2016年慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の特任准教授に就任。