日本発達支援サッカー協会|山本 誠

「発達障がい」を持つ人々を支援する「日本発達支援サッカー協会(JDSFA)」が、広島の地で設立された。

発達障がいとは、主に脳機能に関する、自閉症スペクトラム障がい(ASD)、注意欠如・多動性障がい(ADHD)、学習障がい(LD)の大きく3つに分けられる。「日本発達支援サッカー協会」では、発達障がいを持つ児童を対象にサッカーを通じて楽しみながら「脳の働きのアンバランス改善」「コミュニケーション能力の向上」「集団ルールの理解」などの療育の大切なポイント取り入れた「さっかぁりょういく」という独自プログラムを用いて活動をしている。

協会の理事・事業統括部長・競技本部長を務める、山本誠氏。山本氏の活動に対する想いや、山本氏が見据える未来とは?

日本初「発達障がい」を持つ人々を支援するサッカー協会

もともと私の子どもが障がいを持っていて、未就学の頃、地域の療育センターに通っていました。 その頃、障がいを持つ子どもたちが屋外で運動する機会が少ないと感じ、たまたま自分がサッカー をしていたので、周囲のお父さんたちと「一緒にサッカーでもしようじゃないか!」ということになり、 フットサル場を借りて、お父さんコーチとして向き合い始めたのがきっかけです。

それから、少しずつ続けているうちに、歯科医である杉岡英明さん(現JDSFA代表理事)と広島県の シニアサッカーチームを通じて知り合いました。 杉岡さんと色々話をするうちに、自分たちを 育ててくれたサッカーで、障がいを持つ子どもたちに何とか役に立てるんじゃないか!?ということで意気投合しました。 今から7年前ですが、発達障がい・知的障がいの子どもを持つご家庭に声をかけ、ご両親も一緒に 親子で取り組めるリクリエーションという形で月に1度やろうということになりました。それから、何年もかけて、発達障がいの特性に合わせたサッカープログラム『さっかぁりょういく』を つくりました。
*さっかぁりょういく(商標登録第5870883)

児童館や学童保育ではなく、障がいを持つ児童を放課後預かって療育する児童デイサービスの 事業所があるのですが、現在はそこからオファーを受け、協会から1~2名のコーチを派遣して 『さっかぁりょういく』プログラムを実施しています。 また、当協会が運営する、SKCアカデミー(発達支援サッカー教室)でも実施していて、 プログラムの前後には、必ずその日の子ども達の様子について長時間ミーティングを行っています。 *SKC=スペシャルキッズコーチング(商標登録第5865454)

スペシャルキッズコーチたちは皆、子どもたちを第一に考え、向き合います。 児童デイサービスの『さっかぁりょういく』では、コーチだけでは行き届かない部分がたくさんあり 各事業所の指導員さんの協力が不可欠です。 事業所の管理責任者と常に連絡を取りながら、 子どもたちの状況を把握して、子どもたち1人1人の最善を考え、プログラムメニューを決めています。 そのため、コーチは子どもたちと触れ合う能力と各事業所の指導員の方々とのコミュニケーション 能力が求められます。

ウオーミングアップを丁寧にやる意味としては、「怪我の予防」と「躾」の両方があります。 「躾」としては、ウオーミングアップ時に「決められたスペースを離れない」ということです。 特にADHD(注意欠如・多動性障害)を持つ子どもは、周りの刺激が気になって、1か所にじっと している事が難しいので、プログラムメニューの種目とか、何分で終わるかなど、見通しをたてて あげると、大きくスペースを離れる事が減っていきます。 また、ついつい早くやってしまい、「ゆっくりやる」ことが苦手です。例えば、ドリブルなどは、コーチのゆっくりで丁寧なドリブルのデモンストレーションをみて、 それを子どもたちがしっかり模倣して、我慢しながら、ゆっくりゆっくり、ボールを運んでいくことが 力のコントロール(ゆっくりやる)のトレーニングになります。プログラムメニューやルールの説明は、言葉による説明(聴覚A)、絵や写真を見せたり デモンストレーションによる説明(視覚V)、コーチと一緒にやってみる(体感覚K)など、 各感覚にアプローチして行っています。

体育館など会場に集合した時から、子どもたちのテンションなど様々な分析は始まっています。 初めからハイテンションすぎたり、いつもよりローテンションなど、子どもたちの様子や機嫌を入念に 分析して、時にはプログラムメニューを変更したり、チーフコーチとアシスタントコーチの役割分担を 決めたりします。
アイスブレイキングで鬼ごっこを行う場合、鬼ごっこが嫌いな子を鬼にしてしまうと ゲームが崩れてしまうのでそれは避けています。 プログラムの回数を重ねて行くうちに、子どもたちの個性が把握できるようなってくるのですが、 この子は「初めに捕まえても大丈夫だ」、この子は「最後まで捕まえずにおこう」とかを判断して いきます。また、普段運動不足の子は、あえて捕まえないようにして、たくさん走って運動してもらい、 いつも元気に動き回ってる子には、最初に鬼になってもらうなど工夫しています。

負けず嫌いな子は大勢います。 Gameの時など、ゴールできないとパニックになる、 相手にゴールを決められてもパニックになる、チームが負けてもパニックになる。 さっかぁりょういくプログラムに参加して間もない子どもたちによくあるシーンです。このような、思い通りにならないシーンをたくさん経験して、子どもたちは我慢する事や チームワークを覚え、好ましい行動を身につけ、成長していきます。障がい者サッカーも健常者サッカーも「ゴール」という最終目標に向かってチームで向かっていく 事ですよね!なかなかシュートできない子には、これは「ゴール」できるだろうというポジションまでコーチが一緒にボールを運んでいってあげたりしますが、それでも躊躇してシュートできない。自信がないわけです。 しかし、決めきる・やりきる事が大切なので、必ず「ゴール」を決めてもらいます。「ゴール」という成功体験をたくさん積み上げ、子どもたちは自信をつけていきます。

プログラムの最後に行うPK合戦は、成功体験を積み上げるのにすごくいいメニューで、 GKと1vs1なので凄く緊張感もあるし、シュートを決めた時の達成感もあります。 観ている周りもドキドキ感が満載です。そこで成功する喜びを体験する事が、子どもたちにとってプログラムに参加するモチベーション になっています。「ゴールしたい!」という本能に任せる部分が大きいと感じていますが、それらを積み上げて 外発的道義づけから内発的に移行するよう意識して指導しています。

発達障がいを持つ子どもたちは、自分を表現する事が苦手なわけですが、それでも休まずに プログラムに参加してくれています。 休憩の時間も常に観察しているのですが「誰が一番ルールを守れているか」 「誰が一番座る 姿勢が良いか」など、細かい部分まで見て褒めてあげています。人から注目される事が苦手で、普段から褒められる事が少ないので、良い所をみんなに見て もらい、褒めてもらい、認めてもらう事が自己肯定感の向上に繋がります。どんどん褒めてあげないといけません。

家庭でも保護者の方にも褒めてもらい、たえず褒めて褒めてを繰り返しています。 ただし、暴言や暴力については子どもたちと、じっくり向かい合っています。その子の暴言暴力など好ましくない行動の裏には、様々な要因があります。 やってしまったことは仕方ないが、次にどうするかということが重要なのです。 こういう時は、子どもとマンツーマンでじっくり話し合っています。

今後は『さっかぁりょういく』を多くの方々に知っていただくとともに、発達障がいの理解を 広げていきたいと考えています。 昨年から開催している、当協会の年間を通じた≪さっかぁりょういく初級認定講座≫の他に、 協会認定≪コーチライセンスシステム≫も行っています。 参加人数が集まれば、遠方へ出向いて講習を開催する事もできますので、是非呼んで いただけたらと思います。

ひとりでも多くの子どもたちに『さっかぁりょういく』に出会ってもらって、楽しみながら、笑顔になってほしいです。 そして、輝くような我が子の笑顔を見て、保護者のみなさんにも笑顔になってもらいたい。 たくさんの笑顔をつくりだして、障がい者も健常者もお互いを認め合う社会が、世界に広がっていく ことを目指して、今後も頑張ります。

interview by HARA Sunao
photograph & text by SATO Shogo

PROFILE

山本誠 Makoto Yamamoto
一般社団法人日本発達支援サッカー協会
理事 SKC事業統括部長・競技本部長

広島県出身 1962/08/02生

【経 歴】
大阪商業大学 
マツダオート広島 
日本リーグ2部 全国社会人大会準優勝 中国リーグ優勝 得点王3回 広島フジタサッカークラブ 中国リーグ優勝 得点王1回 アシスト王1回 広島県代表選手・監督として国体出場 広島YUーYUフットボールクラブ 広島県シニアリーグ優勝 全国シニア大会出場


【ライセンス】
JDSFA公認さっかぁりょういくチーフディレクター
JPSA公認中級指導員
JFA公認C級コーチ
JSPO公認指導者


 

LINK

一般社団法人 日本発達支援サッカー協会
代表理事 杉 岡 英 明

広島県広島市西区三篠北町12-27
TEL 082-225-7807 FAX 082-225-7808
MAIL info@jdsfa.jp
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