田中 芳尚 ×   金田 喜稔
ものづくり企業、大迫電気が描く、ビジネスとスポーツの架け橋

元サッカー日本代表”異端の天才ドリブラー”金田喜稔。

半導体製造装置の「制御盤」の設計・制作を手掛ける大迫電気株式会社の代表取締役 田中芳尚氏。

「ものづくり企業、大迫電気が描く、ビジネスとスポーツの架け橋」をテーマに対談が実現した。




 
ー田中
当社は1990年に設立、主に半導体製造装置の「制御盤」の設計・制作を手掛けてきました。もともと個人商店だった先代の頃は、今ではもう見かけませんが木の電柱などの電気工事業をしていました。当時、大手電機メーカーさんとの取引があり、トランジスタラジオからシーケンスという制御技術に発展した時期でもあり、将来的に取り組まなければいけないという必要性も感じ、大迫電気株式会社を設立しました。電気工事からシーケンスへの参入は、専門家からすれば180度違う仕事に鞍替えしたようなものでした。
 

ー金田
先代が懸命に取り組まれたベースがあって、今があるのですね。
 
 
ー田中
ある種カリスマ性のある先代だったので、先代が今までやってきたことで、僕にはできないことがあります。葛藤は常にありますが、勇気を持たないといけないし、口にしたら最後までやり通さないといけない、というのが私のモチベーションにもなっています。


ー金田
半導体以外にも何か製造されているのでしょうか?
 
 
ー田中
半導体の加工、組立、検査などを行う製造装置には、ナノレベルの微細な動作、1000分の1°C単位の温度調整など、緻密なプログラムを施す必要があります。その半導体で培った技術を生かし、近年はスマホに利用される高性能レンズの表面に薄く何層にも塗膜をかける「蒸着」をメインに、光学分野にも積極的に展開しています。
 
 
ー金田
僕は専門的なことは分かりませんが、例えば日本の町工場で作られたネジがスペースシャトルにも用いられていたりする、みたいな話ってあるじゃないですか、やはり、日本の製造業は世界で戦える技術レベルなのですか?

 

ー田中
やはり世界と比較してもMADE IN JAPANの技術は高いと思います。技術レベルの合格ラインを100として、100に達しない製品は商品として出荷ができない日本製品と、70のクオリティーでも出荷してしまう海外製品とでは、例えばエラーの頻度や耐用年数にも違いが出てきます。
 
 
ー金田
製造業という枠において、例えばテレビや冷蔵庫みたいな家電製品は、これまで日本が世界一だったじゃないですか。日本の製造業が海外に追い越されているみたいなニュースを聞いて、何をきっかけに競争力が落ちているのかわかりませんが、僕は常に日本が1番であってほしいですね。
 
ー田中
様々な要因も関係していると思いますが、近年の働き方改革をはじめとした労働価値観の影響は少なくともあるような気がします。日本が経済大国になったのは、ものづくりによる部分が大きい思っていますが、先代たちが積み重ねてきた仕事を振り返ってみても感じることが、仕事は「結果ありき」とゆうことです。
お客さんの期待に対して応えるべく、成果を挙げる。その結果、時間がどれくらいかかったか、でなくてはなりません。時間軸にこだわるばかりで成果が問われていない、近年の働き方に対する議論に違和感を感じます。
 
 
ー金田
自分が好きなことに取り組むとき、時間を気にしなかったですよね。残業という枠を超えて夢中でやっていたような気がします。最近だとそのあたりの労働の価値観は変わりましたか?


ー田中
我々の頃と比べると全然違います。それこそ定時になれば帰るのが当たり前ですし、手がけている仕事が、納期を目の前に70%しかできていなくても帰るのが当たり前のような感じです。なので、当社の採用面接では最初に「時間を気にするならウチに来ない方がいいよ」と伝えています。それでも仕事をしていただければ、対価はきちんとお支払いしますという感じです。
 

ー金田
僕も現役を引退して2~3年程、日産自動車に勤めていた時期があった中で、先輩方はやっぱり仕事に対して高い気概を持って取り組んでらっしゃったと思いますし、そう言った先輩方の価値観に触れながら育ったので、田中社長のお話はとても腑に落ちます。
サッカーの世界で例えれば、個々が技術の向上を当然求めていかないといけないし、さらにそれが11人揃わないとチームは強くならないし、勝てないんです。これは他の世界でも共通する普遍的事実だと思うんです。

ー田中
また、同時に弊社では「とにかく残業をすることを恥じなさい」ということを社員にお伝えしています。
私はこの会社で9年ほど代表を務めていまして、代表に就任する以前は現場で修行をしていました。私と先輩が朝8時から同じ時間に仕事を始めて、先輩たちは5時で終わるのですが、私のような技術や経験がない人間は7時や8時までかかるのです。5時までにできる人がいるのに、自分はできないとゆうことを恥じました。職人の世界なので仕事や技を教えてもらうことはあり得なかったので、仕事を早く終わらせる為には、上手な人の技を盗むしかなかったです。技を盗んでいくと仕事が段々と出来るようになってくるのですが、「人の技を盗んで褒められる」というのが職人の世界でした。技術職とサッカーも共通点があると思います。
また、代表に就任して、従業員に伝えているのが「リスペクト」することです。顔の見えないお客さんに満足してもらうためにはどうしたら良いのかを考え抜く。そこには仕事や人に対するリスペクトとがないと、お互いの満足が得られないと思っています。


ー金田
Jリーグが開幕し、サッカーがプロ化して約25年くらいが経ちました。僕らの現役時代は、オリンピックに出場することが大きな目標でしたけど、当時の日本代表の先輩からも技術は教えてもらえなかったです。止め方、運び方、蹴り方とゆうのが基本技術になるのですが、それを盗めないことには上には行けなかったです。練習メニューをコーチから聞いて、それぞれグラウンドに散らばって練習するのですが、自分で考えて練習に取り組まないと成長もないし、ポジション別の競争にも勝てないんです。
全てとは言えないですが、近年子どもを取り巻く環境において、教わるのを待っている姿勢の子どもが増えてる気もします。一方で上に行くのは、自分で考えて練習に取り組んで、技を盗んでいるような選手です。これは昔も今も変わらない事実だと思います。
あらゆる情報も増えてサッカーを取り巻く環境が良くなった側面もあると思いますが、比例して的外れな情報が増えて子どもたちを迷わせている状況もあるんじゃないかと思います。
僕らの時代だとペレやマラドーナですが、本来、子供はいい選手のプレイを見て、それに影響されて、自分がピッチに出て表現するわけですが、いい選手やいい試合を見ただけでは当然上手くならないので100万回でも練習しないといけない訳で、そういう選手は上手くなるし上に行く。そういった意味でスポーツは非常にわかりやすいシンプルな世界だと思いますし、自分自身このスポーツの世界に身を置いていて良かったと思えることでもあります。
どの分野にでも言えることではないかもしれませんが、自分が興味を持って、良いものを作って、それがユーザーの方に喜んでもらえるというのが、仕事に携わる上で重要なことだと思いますね。
 
ー田中
私が代表に就任して一年目の目標は「環境整備」だったんです。先ほどお話した「リスペクト」は、私自身も日々心がけているのですが、社員の方々が仕事を楽しく思えればもっと前向きな気持ちが芽生えるし、そのための環境とは何かと考えて環境整備に取り組みました。それは何かと考え実施したのが、有線放送で職場に音楽を流すことでした。昔の職場のイメージだと「音楽なんか聞きながら仕事できるのか?」と言われていましたが、逆に仕事に集中でき、結果、仕事の効率は上がりました。
音楽を流していない状態だと、作業台で隣の人が物音を立てる、立ち上がる、そこで集中が途切れる訳です。でも音楽というシャワーのようなものが流れることで自分の空間がキープでき、周りが気にならなくるのです。
 
 
 
ー金田
今年の2月に、ハワイで開催された「環太平洋フットサルカップ」という大会に参加してきたのですが、そこに参加した学生と話す機会があって「大会の会場で音楽が流れていて、独特のゆるさが良い」と言っていました。外人の参加者も多かったので、ハワイというアメリカ圏の風土特有の規律のゆるさも良かったのでしょうが、音楽が流れているリラックスした環境でプレイすることで、プレイ自体にもいい影響があるんだと思います。
スタジアムでの歓声やコールもある種の音楽でしょうが、よく言われる「アウェイが怖い」というのは、相手サポーターの野次やブーイングが怖いというより、相手チームが相手サポーターの声援によって、普段以上の力が出るから嫌がるんですよ。一部の海外のリーグでは、サポーターが過激で、負けたらスタジアムから出られないような恐怖に支配されるみたいなこともあると思いますが。周囲の歓声が集中力を醸成し、声援が自分の力に勇気を与えるんですよ。
 

ー田中
なるほど、確かに外部の環境は影響が大きいですね。私も会社を経営していく中で、先代が私たちに教えてくださった仕事の厳しさ、やりがい、楽しさをこれからの方々に伝えていきたいです。変化する時代に合わせた働き方を作り上げることも必要ですが、「昭和の考え」だからと言って全て切り捨てず、昔の良き習慣まで切り捨てることはしてはいけないと思います。そこを切り捨てれば、私たちのような零細企業は淘汰される気もします。一部、AIの導入も業界では進んでいますが、人間の手でしか作ることのできない仕事でもあるので「必ず成果を出す」「お客さんに良いものを届ける」という意欲を持って進んでいかなければいけないと思います。


ー金田
僕も昔の良き習慣まで切り捨てられていくような風潮には疑問を感じます。業界ではAIの導入も進んでいるのですか?
 
 
ー田中
私たちの小さい頃は、「ドラえもん」や「宇宙戦艦ヤマト」を観ていた時代ですが、現在使っているスマホはまさにアニメの世界ですよね。スマホを始め、モノというのは人間の欲が具現化しただけと思うのですが、AIに「水が飲みたい」とか「お腹が空いたから何か食べたい」というような欲があるのかというと、AIに欲はありませんよね。AIが素晴らしいのは、人間がする作業を時短できたり、人間では危険な作業を任せられたりしますが、人間が追い越されることはあり得ないんじゃないかと信じています。
 
 
ー金田
僕はそれを聞くと少し安心するところがあります。やはり人が生きている世界なので、あくまで人がベースであってほしいと思っています。僕は60歳を超えているので、若い人に比べたら先も長くはないですが、これから社会を背負う若い世代が、それらと競争してないといけないという状況を見ると、そういう環境で子どもはどう育つのか、正しく育つことができるのか、危惧することがあります。
 
 
ー田中
現代の若者は「草食男子」などと呼ばれますが、私たちの世代と意欲は変わらないと思っています。ただ、現代はあらゆる面で飽和していて選択肢も多い。皆さんどれを選んでいいか迷っているだけなんじゃないかと思います。時代とともに社会も進化しますが、ブレない信念とリスペクトの精神を持っていれば、さらなる進歩が実現できると信じています。
 




PROFILE

大迫電気株式会社 
代表取締役 / 田中 芳尚 

 


昭和44年、東京・品川区生まれ。専門学校卒業後、夏は沖縄でダイビング、冬は長野でスキーのインストラクターとして働く。平成12年、大迫電気株式会社に入社、半導体製造装置の制御盤の製作等の業務に従事。平成22年7月、同社代表取締役に就任し、現在に至る。 


 
LINK >> https://www.osako-electric.co.jp/