特別対談
藤田直志 × 金田喜稔
"スポーツ支援とスポーツの価値"

日本航空株式会社に入社後、本社および大阪・沖縄・パリ支店等で販売・営業部門を中心に従事し、旅客販売統括本部長としては収入部門全体を統率し、実績をあげてきた藤田直志氏。
現在は代表取締役副社長執行役員として社長を補佐し、経営体制の一層の強化と充実に大きく貢献している。

 
また、日本航空株式会社は様々な面で数多くのアスリートや競技団体を支援し、近年では従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる"健康経営銘柄"の企業として選定され、社員の健康を支える健康経営を推進している。
 

日本を代表する航空会社として、スポーツ支援を通じて体験したスポーツの価値とは。藤田氏と元サッカー日本代表”異端の天才ドリブラー”金田喜稔。両者の対談が実現した。
 

特別対談|スポーツ支援とスポーツの価値

ー金田
ご無沙汰しております。今年の2月にハワイで一緒にフットサルをプレイして以来ですね。かなりお上手でしたけど、フットサルは相当やられているんじゃないですか?
 
 
ー藤田
それが、マラソンはやるのですがフットサルは全然なんです。弊社で31年間ホノルルマラソンを支援しておりまして、ホノルルマラソンは5回くらい走りました。最近は時間もなく走れていないので完走に4時間以上かかってしまうのですが、マラソンだけは今も続けています。
 
 
ー金田
僕の女房が数年前にマラソンに興味を持ち出して、女房に誘われて僕もこれまでにホノルルマラソンは2回出場しました。完走した後の達成感はもの凄いものでしたけど、完走はきつかったですね。藤田さんはどのくらいのタイムで走られるんですか?


ー藤田
ホノルルマラソンは最高4時間10分くらいです。10年以上前ですけど国内のフルマラソンは3時間代で走っていました。



ー金田
それはすごいですね。実は藤田さんとハワイでお会いした後、すぐ台湾に行ってサッカークリニックをしてきました。2010年9月に名蹴会を立ち上げて、2011年3月に東日本大震災が起きて、その時に200億円以上にものぼる義援金を台湾から日本に送って頂いたんですが、その頃から台湾に対して何か自分が恩返しできることがあったらしたいなとずっと考えていたんですが、ようやく先日、台北と花蓮でのサッカークリニックというカタチで実現ができました。その際もJALさんには応援して頂き、過去には名蹴会で実施したスペイン遠征、名蹴会の国内での活動やJCカップなど、JALさんには常々応援して頂いて大変感謝しております。本当にありがとうございます。
 

ー藤田
いえ、とんでもございません。金田さんのようなメキシコ五輪の後の日本サッカーの創世期を支えられた方々や日本代表のOB選手が、若い世代の指導をしてサッカーの普及をするという活動に共感してご支援させて頂いております。

 
ー金田
僕自身は日本サッカー界の縦軸の中で、好きなサッカーをやらせてもらえたことに感謝すべきだと思っていますし、日本サッカー界に貢献してきた選手たちが自身の経験を通じて培った技術やマインドを、全国に発信して欲しいという思いがあります。僕自身も先輩から受け継いだものを噛み締めながら、自身の経験を青少年少女に伝えていきたいです。JCカップも、北海道から沖縄までのU-11世代の選手たちがピッチに出る喜びや感動を覚えられるんじゃないかと思っています。色々なカタチがありますが、普及というのは厚みを持たせてやっていかなければと思っています。それにしても、藤田さんは良い太腿とか脹脛をしてますよね。こうしてお話ししていてもスーツのシワの寄り方でわかるんですよ。アスリートじゃないとこういうシワが寄らないんですよ。時間があるときは今も走られているんですか?
 
 
ー藤田
そうですね、特に朝走ると1日体調が良いということに気づきまして、週末や出張先で必ず1時間くらいは走るようにしています。私のように日頃からたくさん飛行機に乗って長時間座って移動していると体調が不安定になりやすいので、走ることは20年くらい続けています。


ー金田
走ることや食事であるとか、日常のルーティーンを決めてご自身で健康管理をされているんですね。
 
 
ー藤田
そうですね。ゴルフやテニスは相手が必要ですけど、走ることはマイペースに自分一人でできるので取り組みやすいですよね。最近は打ちっ放しに行ったりバーチャルの練習場に通ってゴルフの練習をしています。
 
 
ー金田
ハワイのピッチで真摯にフットサルに取り組む藤田さんを拝見しましたけど、センスが良いのできっとゴルフも上達は早いと思いますよ。フットサル本当にお上手でしたよ。
 
 
ー藤田
サッカーやフットサルはほとんど経験がないんですが観ることは好きで、息子がずっとサッカーをやっていたので毎回応援に行き、日本サッカー協会さんを担当していますから日本代表戦の観戦にも行っています。
 
ー金田
JALさんはサッカー日本代表を始め、様々なアスリートやスポーツを支援されていますよね。僕が20代の頃、日本代表としてアジアに遠征していた頃から、JALさんの飛行機に乗ることがひとつのステータスでしたし、飛行機に乗ることに緊張感もありました。昔、バンコクから成田空港行きの便で、着陸した時に乗客がみんな拍手をするんですよ。無事に着いたことを喜ぶという意味なのか、今ああいった光景は見なくなりましたよね。
 
 
 
ー藤田
"飛行機で移動すること"が普及したということなんでしょうね。私たちも長い間、サッカー日本代表を支援させて頂いておりまして、先日のワールドカップでも日本代表チームにJALをご利用頂いているんですけど、往路は緊張してますけど、帰国される際は、試合の結果によって空気は違うようで、客室乗務員から聞くと今回は明るい機内だったようですね。
 
 
 
ー金田
当たり前に思いがちですが、フライトには多くのスタッフの方々の支えがあるから、僕たちは安心して搭乗できていると思います。
機内の乗務員さんはもちろん、空港で働かれている方も沢山いらっしゃると思いますが、JALさんが健康経営を推進されているとお聞きしました。
 
ー藤田
はい、私が健康経営管理の責任者です。経済産業省さんが、東京証券取引所さんと共同で、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定し公表します。様々なデータをもとに、企業の日頃の健康に対する取り組みが評価されるのですが、2015年から2017年まで選定されました。選定されるのが1業種1社で、今年は逃してしまったのですが、勝った負けたではなく、全日空さんとお互い切磋琢磨して、業界全体が良くなっていければ良いと思っています。弊社は約3万3000人の社員がいまして、約8割が空港の現場でシフト制の不規則な働き方をしていますので、健康維持を意識して頂くことは非常に大事に思っています。特に生活習慣病やメンタル、今年からは禁煙にも積極的に取り組んでいます。禁煙はなかなかハードルが高いです。
 
 

ー金田
確かに禁煙はハードルが高そうですね。
 
 
ー藤田
女性があまり吸わないのもあって全体の喫煙率は2割程度なのですが、空港の現場の整備や搭載関係の社員の喫煙率が5割くらいあるんです。お昼休みや休憩時間は喫煙して良いのですが、2018年5月31日から”就業時間内禁煙”を設けて、喫煙箇所を閉鎖しました。これはタバコを吸うこと自体を止めようというより、健康を大事にしようという思いを社員さんに伝えたいのですが、なかなか大変なこともあります。
 

ー金田
特にこれからの時代は、自身で積極的に健康管理をする意識を持つことは大切ですよね。でも藤田さんが健康経営のリーダーを務められているのは、イメージにぴったりですね。
ー藤田
ありがとうございます。もちろん健康経営銘柄に選定されることは喜ばしいことなのですが、「社員が現場で明るく元気に働ける」ということが根底にあります。我々は2010年に経営破綻した際に、事業規模を縮小したり、厳しいリストラを断行しました。今では皆様のご支援により会社を再生しましたが、当時、新生日本航空の出発にあたって、京セラの稲盛和夫さんが会長に就任され、企業理念を
「JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、お客様に最高のサービスを提供します。さらに企業価値を高め、社会の進歩・発展に貢献します。」と、定めました。
 
 
倒産した会社の企業理念の冒頭に「全社員の物心両面の幸福を追求」と掲げて良いのかと、当時は議論も行われたのですが、稲盛さんが「社員が一生懸命に働いて、お客様にサービスすることは大事なんだけど、自分たちや仲間のために働くのが企業として一番大事で、経営サイドが社員に対してそれを伝えて、一緒について来てくれと、そういう覚悟を持って社員に伝えるのが企業理念として一番大事だよ」ということを言われて、なるほどなと思いました。
数字や業績だけを良くしようとか、社会での体裁を保つためだけのような経営をしていたら会社が良くならないし、社員と一緒になって家族のような関係で会社を経営していかなければいけないということを教わりました。
その後も色々なことに取り組む中で、企業理念の大切さも実感し、健康経営の取り組みもそれなりに成果が出ました。



ー金田
僕は20代の頃、日産自動車に在籍してしていましたが、当時の特に大手企業の企業理念って大体そういう感じだった印象があります。僕は経営のことは詳しくありませんが、今は当時に比べると経営が変わって来ている印象はありますね。JALさんの「社員の健康やその家族の幸福があるからこそお客様へサービスできる」といった企業理念はさすがだと思いますね。本当に素晴らしいと思います。
 
 
ー藤田
昔と比べて、ファンドや投資家が企業に投資をして利益をあげるということが活発になっていて、利益をあげることが一番求められるような時代になって来たと思います。もちろん利益をあげて投資家にフィードバックするのは大事なのですが、何の為に利益をあげるのかということが大事ですよね。特に日本は人口減少が始まっていますし、男性も女性も、社員が長く働いてもらえるような会社にしていかないといけません。さらに女性は、出産や子育てなどのライフイベントがあるので、女性にとって働きやすい環境作りは大切です。


ー金田
出産休暇や育児休暇をとって、戻ってこられる女性社員さんも沢山いらっしゃいますよね。



ー藤田
はい、ここ数年でも社員の就労支援として、ワークスタイル変革や各種休暇制度の設定など柔軟な働き方を推進しておりまして、近年では女性機長も増えてきましたし、海外で活躍する女性社員も増えてきました。
 

 
ー金田
ホノルルマラソンの時に成田空港からハワイ行きの便に乗った際も、JALさんの客室乗務員の方々は皆さん親切でサービスが行き届いていて、いつも安心して搭乗しています。提携ホテルのアーリーチェックインもとても有り難いですよ。やはり日本からハワイにはじめて就航したエアラインとして、ハワイに対しての思い入れは強いのですか?
ー藤田
ハワイでの滞在がより豊かに自由で快適になるよう、提携ホテルに「アーリーチェックインサービス」を展開し、従来のご旅行よりも早くホテルに入室できるようにしています。また、ホノルルマラソンにおいては、現地の皆さんと一緒にマーケットをつくって来ましたし、経営破綻した時も「ホノルルマラソンだけは続けてくれ」と多くの方々から声を頂きました。当時、経営破綻したばかりの時は協賛するイベントは全部中止となっていました。ですが、ホノルルマラソンは確かにお金をかけているけど、日本からお客様の送客もできるし、ハワイにとっても象徴的なイベントですと提言し、開催継続を決めました。経営破綻した後の最初のホノルルマラソンが開催されて、私はその時に初めてホノルルマラソンに出場しました。皆さんに感謝を伝えたかったから。現地に伺って皆さんにご挨拶をしたり、沿道の皆さんに「ありがとう」と感謝を伝えて、涙を流しながら走ったことを覚えています。
 
経営破綻した時には、ホノルルマラソン以外にも、色々な方々にご支援して頂きましたが、Jリーグではユニフォームスポンサーとして清水エスパルスの創設から支援をさせて頂いております。清水エスパルス戦のスタジアムで、サポーターの方々が当時のJALのロゴが入ったユニフォームを着て「JAL頑張れ!」と心温まる応援をして頂きました。それを見た時、本当に有り難かったです。なので、清水エスパルスがJ2に降格した時も、今度は我々の番とスタジアムにJALから応援団を連れて行き「エスパルス頑張れ!」と応援をしました。
 
 
ー金田

エスパルスのお話は初めて聞きましたが、とても素晴らしいお話ですね。


ー藤田
はい、地元の方々との結びつきが僕らにとって宝だと心底思います。それを貴重に大切にしていきたいと思っています。
金田さんは広島県のご出身ですが、元サンフレッチェ広島の森保さんが代表監督に就任されましたね。
 
 
ー金田
そうですね、サンフレッチェは広島出身だから気になりますし、僕は日産出身なので横浜F・マリノスも気になりますが、やっぱり日の丸ファンなんですよ。ですから日本代表はいつも応援していますし、9月11日に行われたコスタリカとの初試合は勝てて良かったです。
 
 
ー藤田
森保ジャパンになって、森保監督が率いたサンフレッチェ広島の頃の戦術が引き継がれたりするものなのでしょうか?

 
ー金田
そうですね、引き継がれると思います。この間はバラけて普通のスタイルで展開してますけど、多分森保監督が思考してるのは3バックで「3−4ー3」のシステムを落とし込むと思いますね。ただ、代表チームというのはいつも一緒に集まってプレイしているチームではないので、選手がそれを理解するのにも時間を要しますから、それが代表チームの難しいところでもありますよね。
 
 
ー藤田
監督や選手のプレッシャーはすごいでしょうね。金田さんが日本代表の頃もプレッシャーは感じてらっしゃったんですか?
 
 
 
ー金田
僕はあまり感じてた方ではないと思いますけど、当時は今みたいにサッカーの注目度が高かったわけではないので、オリンピックやワールドカップの予選にも出場しましたがプレッシャーはそこまで感じてはいませんでした。それに比べれば、今の選手は大変だと思いますよ。オリンピックもワールドカップも本戦に出場して当たり前という期待感を背負ってますからね。
 
 
ー藤田
お揃いのネクタイとスーツで移動して、海外遠征においてはシェフも帯同して、チームを取り巻く環境もものすごく整備されていますし、代表チームとしての高い規律やマナーみたいなものも感じますね。例えば、ヨーロッパのナショナルチームも、ユースの頃からジェントルマンとしてのマナーの指導も厳しいみたいですね。
 

ー金田
日本の場合は、高校を卒業してプロになる選手も多いですが、高校でも大学でも、「サッカー選手の以前に社会人としてどう生きていくのか」というような教育をしてらっしゃる先生方が沢山いらっしゃいます。ヨーロッパの場合は地域のサッカークラブがそれを担うんですよね。
 
 
ー藤田
ヨーロッパは学校に体育の授業や部活動がなくて、スポーツは地域のスポーツクラブでやるものなんですよね。
 
 
ー金田
学校は勉強するためのものだから学校にグラウンドはなくて、スポーツはスポーツクラブでやるものという、昔からヨーロッパは概念が違いますよね。昔、僕らの先輩の方々がドイツに行ってそういった環境に憧れて、Jリーグが創設された流れがありますからね。ただ、僕はヨーロッパや南米には無い日本の中学や高校の体育や部活動の良さもあって、そういった環境で育つ特有のものもあると思っています。
 
 
ー藤田
なるほど、それはそれで良さは残した方が良いかもしれませんね。今日は面白いお話しを沢山聞かせて頂きありがとうございました。
 
 
ー金田
いえ、こちらの方こそありがとうございました。また一緒にフットサルやりましょうね。
 
 
ー藤田
はい、練習しておかないといけませんね(笑)
 
Dialogue MC:Yoshifumi Asano(ALL MOVIE JAPAN Inc.)
photograph & text by SATO Shogo

PROFILE

藤田直志 -Tadashi FUJITA-
 
日本航空株式会社 代表取締役副社長執行役員

1956年生まれ。神奈川県出身。
国際基督教大学卒業後、1981年 日本航空株式会社入社。 
沖縄・パリ・大阪・東京で主に営業部門を中心に従事。東京支店販売業務部長などを経て、2010年に執行役員に就任。
その後旅客販売統括本部長、株式会社ジャルセールス代表取締役社長などを歴任。